第9章 Farewell Song
「あんた誰だぁ…?」
「櫻井翔の家族だよ」
「はぁ?こんなオトコオンナいたっけ?」
へらへら笑いながら、口の端についた血を拭った。
これが、榎本径…
何年も憎み続けた男が、今、目の前に居る。
鳥肌が立った。
「あんた、ラリってねぇだろ…?」
「はぁ?そんなわけねーし」
「フリだろ」
「なにいってんだ…コイツ」
「あんたの父親死んだよ」
「…は?」
「知らないの?もう何ヶ月も前だよ」
「なに…?」
「覚えてる?和也の施設に居た、石井先生。あの人にメッタ刺しにされたんだよ?」
「はぁ?何言って…」
「和也を取り戻すためだ」
低い声でいうと、榎本は黙った。
「な、んで…」
「マスコミを動かすため」
「は…そんなこと…」
私達が5年かかって調べられなかったことが、マスコミにオープンになっただけで、随分と調査が進んだ。
先生はこれも見越していたんだ。
予想外だったのは、榎本の家は完全に径と切れていたことだった。
榎本の家を張っていたのは無駄になってしまった。
だが、今、こうやって目の前にいる。
逃がさない。