第9章 Farewell Song
隣の部屋に入ると、甘ったるい匂いがした。
風間によると、これがアヘンの匂いだそうだ。
「ガオさん…どうするんだよ…その男まで引き取るのかよ…」
風間が心配げに言う。
「大丈夫。あんたには迷惑かけないから」
和也のことは日本の警察に連絡するつもりだ。
でも榎本のことは…
どうしてやろうか。
和也の傍らに立つ。
和也は蹲ったまま、顔を上げない。
雅紀は、榎本の元に静かに進んだ。
いきなりビンを蹴りあげると、榎本を引き起こした。
「なんだぁ…?おまえ誰だ…?」
ろれつが回っていない。
雅紀は胸ぐらを掴むと、榎本をボコボコに殴った。
暫く、私は眺めていた。
雅紀はひとしきり殴ると、榎本を床に放り投げた。
「雅紀、手、商売道具なんだから…」
そういうと、静かに手を引いた。
雅紀の顔には涙の跡がいくつもついてた。
「和也…」
私はしゃがみこんで、翔の愛おしい人の名前を呼んだ。
でも…
顔を上げたその少年は…
和也じゃなかった。