第9章 Farewell Song
リムジンは上海の街の裏通りに入った。
近代的な街は、一歩路地裏に入ると、全く姿を変える。
昔ながらの中国の長屋。
それももう壊れそうな。
かと思えば、旧時代的なビル。
そこにひと気はなく、ただ、怪しい空気が流れている。
ここは立ち退き地区で、一般の住民はもう居ない。
ここに、近代的な街をつくるんだってよ。
取り壊すまでは、ヤクザが好きに取引場所に使ってる。
党の高官に金を握らせば、こんなこと朝飯前なんだそうだ。
リムジンは、その旧時代的なビルの前で止まった。
老板は、ここでお別れ。
助手席の男が、ここから案内する。
帰りはまた別の迎えがくるとのことだった。
老板と握手をして別れた。
「ありがとう。老板」
「役に立ててよかった」
そう言うと、微笑んだ。
助手席の男は黒づくめのスーツで、私達の前を歩く。
風間が封筒を渡したら、中身を確認もせずにスーツのポケットに仕舞った。
「こっち、くる」
片言の日本語で案内された。
ビルはもうぼろぼろで、中の装飾なんかはなんにもない。
剥き出しのコンクリの床を歩く。
「ここ、入る」
黒づくめが止まった。