第9章 Farewell Song
上海は、蒸し暑かった。
空気が淀んでいて息苦しい。
風間が私の隣で誰かに電話をしている。
すぐに私達の前にリムジンが横付けされた。
風間が私の顔を見るから、そこに乗り込んだ。
雅紀も風間に押し込められて車に乗った。
中に入ると、老人が一人、乗っていた。
私はその老人の横、風間は向かい、雅紀は私の隣に座った。
「ガオさん、今回は特別に上から老板に直接会えるよう、手を回してもらった」
風間がいつになく緊張した顔で言った。
「ガオ…よろしく」
老板が、私に向かって手を差し伸べた。
「え…日本語…」
「私は、小さいころ日本人に教育を受けました。だから、日本語を話すことができる」
「そ、そうなんだ…」
「ガオさん、老板は蛇頭系の組織のトップなんだ…だから…失礼のないように…」
「わっ…わかってるよ!」
「くく…そんな緊張しなくていい」
老板はやわらかく笑った。
とてもそんな組織のトップには見えなかった。
風間が老板に分厚い封筒を見せた。
私が用意した金だ。
老板はその封筒をみると、目を細めて笑った。
「後で助手席のやつに渡せ」
「はい…」
その時の老板の目は、蛇のようだった。
前言撤回。
やっぱ、こういう業界の人だわ…