第9章 Farewell Song
一週間に一編、翔のヒゲを剃る。
人間て不思議なもので、こんな状態になってもひげや爪が伸びる。
栄養は点滴でしか取れないし、運動もできないから手や足はやせ細っていった。
毎日、手と足を動かす運動をしてる。
じゃないと血液が循環しなくて、腐る?とか言われて。
潤や智も一緒にやって覚えてくれた。
「老人介護だな…」
智がのんきにそう呟くから、3人で爆笑した。
雅紀は…
世田谷の家から出てこない。
仕事の時は出てくるけど。
施設を無理やり一ヶ月で出てきた。
潤が時々様子を見にいってるけど、クスリをやってる様子は今のところない。
でもそれは今のところだ。
世田谷で、あいつは翔との夢の中に埋もれてる。
現実を直視できないで逃げてる。
クスリをやるのも時間の問題だと思ってる。
でも私は見捨てない。
雅紀も家族だ。
だから、私がなんとかする。
いざとなったら外国にでも匿う。
そんで完全にクスリを抜いてやるんだ…
翔の目が覚めたら、海外にレコーディングに行こうって話も出てる。
そうなったら、雅紀も本格的に治療してやるんだ。
あいつなら立ち直れると思ってる。