第9章 Farewell Song
潤や智も暇があれば病室に顔を出す。
ふたりとも、あれこれ翔に話しかけてる。
寝てても意識があって、聞こえてるんだって。
だから返事はないけど、ずっと話しかけてる。
3ヶ月もこんなことやってたら、皆すっかり慣れてきて。
返事がない会話を延々としていることもあった。
その中には和也の話もあって。
警察が捜査に乗り出して、だいぶわかってきたことがあった。
榎本の息子は、偽造パスポートをやはり所持してた。
最後に立ち寄った国はスイス。
そこから先がわからない。
そして偽造パスポートの名前もわかった。
和也が今、その名前で暮らしている可能性が高いそうだ。
警察は信用ならないから、私も探偵や裏の世界の人間を使って情報を集めてる。
この5年ですっかりこんなことには慣れてしまった。
私には家族が居ない。
だからこいつらが家族だ。
同じように親がいない和也は、私の弟だ。
だから、全力でこいつらを守る。
邪魔する奴は、殺す。
そう、だから…
榎本径
あいつも殺す。
少しずつ、あいつに近づいているような気がした。
先生のお蔭で。