第8章 Bye Bye Baby
あの男は、急に現れた。
「僕、こういう仕事に興味があって…僕の時間があるときだけなんですが、働かせてくれませんか?」
あの男は履歴書まで持参で施設に現れた。
ありがたい申し出だったが、給料を払うことはできない。
ボランティアなら、と提案したのは私だった。
「構いません。本業は別にありますし、余暇を使って手伝わせてください」
あの男は爽やかに笑った。
その笑顔に、誰もが騙された。
あんなどす黒い顔を隠しているとも知らずに…
榎本 径
これが、あの男の名前。
その日から、早速あの男はやってくるようになった。
自営業の合間をみて、来ているのだと語った。
履歴書の職業を見ると、鍵を取り扱う仕事だった。
それでいつもあんな車に乗っているんだ。
緊急の出動がないときは、結構時間があるらしく、榎本は頻繁に訪れた。
榎本は、一番最初に和也くんに近づいた。
けど、和也くんは全てを拒絶した。
私の元に駆け込んでは泣く。
私は困り果てた。
その頃、手のかかる児童が入所してきたばかりで、和也くんに割ける時間が減っていたのだ。