第8章 Bye Bye Baby
和也くんは、ご両親が居なくなって数年は自分の殻に引きこもりがちだった。
施設にいる間は、私の傍を離れず、時にはトイレにまでついてくることもあった。
自分の子供達もそろそろ手を離れ、手のかかる子供が増えたようだった。
年末などの長い休みは、自宅に連れて帰ったりもした。
私の子供達や主人は、和也くんを大歓迎して、一緒に遊んでくれた。
大学生の娘は和也くんと一緒に家事を手伝ってくれて、高校生の息子はお風呂に入ってくれた。
主人は日がな一日、和也くんの手を引いて近所に散歩に連れだしてくれた。
そうやって、私の家族にも和也くんは愛された。
…他にも和也くんのような生徒はいないでもなかった。
でも和也くんのように完全に孤児になった子はいなかった。
だから…
依怙贔屓だと思われてもいい。
私は和也くんに愛を注いだのだ。
それに、後悔はない。
だけど、一つだけ。
あの男…
それだけが、私の人生のなかで唯一の汚点であり、後悔であり。
和也くんにはなんと謝っていいのかわからない。
あんな男を近づけてしまったのは、誰でもない私だったのだから。