第8章 Bye Bye Baby
まだ小学生だった和也くんは、すぐに施設に馴染んだ。
でも夕方、いつまで経ってもお父様が迎えに来ない時は、泣いて泣いて。
担任だった私は、いつも和也くんを抱きしめてお父様を待った。
時には和也くんを抱えたまま、机に向かって仕事をすることもあった。
和也くんは年にしては、小さな身体で。
食も細くて、よくご飯を残した。
だから、抱えているのは苦痛じゃなかった。
とろとろと眠りに落ちてしまうと、職員室のソファに寝かせる。
毛布をかけて、暫く見守ると、くぅくぅと心地いい寝息が聞こえてくる。
ここにいる生徒は、大半が中程度~重度の自閉症の子供で。
こんな風にちゃんとご両親が迎えに来ることは少ない。
ここの子どもたちのご両親は、この子たちを見捨てる。
冷たい現実に、私の心は年々凍っていくばかりだった。
併設されている寮から、ほとんどの生徒は通っていた。
だから、和也くんは異質だった。
彼だけが幸せの象徴のようだった。
和也くんを抱きしめていると、私の凍った心が溶けていくようで。
幸せだった。
そんな和也くんの幸せが、一気に崩れる日が来た。