第8章 Bye Bye Baby
和也くんが施設に来たのは、冬だった。
こんもりとしたコートに包まれて、ご両親に両手を繋がれて玄関に入ってきた。
私の顔をみると、怯えてお母様のスカートの影に隠れた。
とても綺麗な子だった。
白い肌を持った彼は、一見すると女の子と見まごうようで。
その透明な瞳で見上げられると、思わず頬を撫でたくなる。
純粋な瞳。
都心の片隅の施設にやってきたのは、お母様が心臓の病気を患っていて入院する施設が近いためだった。
もう長くない、とお父様がおっしゃって。
だからなるべく母の近くに居させたいのだということだった。
そういうお父様は、いたく憔悴していて、痩せていた。
お父様もどこか悪くされているのではないかと心配になった程。
和也くんはそんなご両親の傍から、離れようとしなかった。
最初の登園日には、泣いてご両親の手を離さなかった。
こんなに泣くのは初めてだという。
泣きつかれて眠ってしまうと、お母様の入院手続きのため、ご両親は去っていった。
私は腕の中にいる温かいぬくもりをぎゅっと抱きしめた。
なんだか愛おしくてしょうがなかった。
「和也くん…大丈夫だよ…」
そう声を掛けると、薄く目をあけてにこっと微笑んだ。