第7章 Kozmic Blues
雅紀に黙って、部屋を連れ出す準備をしていた時、部屋のポストに直接投函された手紙があった。
俺に宛てた手紙だった。
郵便で届いたものではなかったが、中身を透かしてみて安全そうだったから、とりあえず封を切ってみた。
『櫻井翔様』
お元気にしていらっしゃいますか。
いつもお仕事を拝見させていただいています。
ああ、正確には聴いていたということになるでしょうか。
あれから、もう5年経ちましたね。
あなたは、もう和也くんのことを思い出すことはなくなったでしょうか?
愛する人ができたでしょうか?
もしそうだとしても、それを責めるつもりはありません。
和也くんを隠してしまった相手は、周到でした。
私は長年に渡って、和也くんの行方を追いましたが、今だなんの手がかりも得られません。
あなたもそうなのではないでしょうか。
そんな状況で、和也くんだけを思い続けろというのは、酷なことです…
人間の心というのは移ろっていくものです。
だから、私はあなたを責めることはありません。
話は変わります。
実は、私と和也くんが過ごしたあの施設は来月で閉鎖となることとなりました。
あの施設に居た子どもたちは、それぞれバラバラに他の施設に移ることとなりました。
私は本日退職となりました。
私の子どもたちは、巣立って行きます。
全ての子ども達が巣立っていきます。
唯一の心残りが、和也くんです。
私は…
彼を本当の息子のように愛していました。
今でも彼を、愛しています。