As well be hanged for .....
第2章 出会いは唐突に 契約は慎重に
「お嬢様。彼はお嬢様の契約者、シエル・ファントムハイヴ様です。」
「シエル・ファントムハイヴ?」
少女の一族が、かのファントムハイヴ伯爵の後釜として、その仕事に従事してもう100年近くなる。
それなのに、目の前に自分はシエル・ファントムハイヴだ。と名乗る人物がいては自分の頭を疑う。
やっぱり、まだ夢の続きを見ているんだわ。と少女は大きな瞳をぱちくりさせる。
「随分不躾だな。ウリエ・フェンベルグ。」
少年は不機嫌そうにソファーに座ったまま、隻眼の赤い瞳で彼女を睨む。
あっさりと、さも当たり前のように自分の名前を呼ばれた少女は、いくら夢の中だからって安心しきってはいけない。と赤目の少年を睨みかえす。
「貴方は一体何者?」
「悪魔ですよ。」
少女と少年の間のテーブルに、二人分の紅茶を準備していた執事服が間髪いれずに言う。
もしかして、これは実に巧妙な詐欺か強盗では無いだろうか。と少女はますます眉を寄せる。
「お前の胸に契約印がある。」
少年が指を指す先は、少女の胸元。
少女は遠慮なく襟を引っ張って自分の胸を覗きこみ少年の言う事が本当かどうかを確かめる。
両胸の間、胸骨の少し下に黒い円とその中に六芒星。
「それは僕が悪魔で、お前が契約者だという証拠だ。」
「夢?」
ことり。と少女の前に香り立つ紅茶が置かれる。
その香りも湯気も本物にしか見えない。