第6章 ♣️そのマンション、私が管理して差し上げましょう
「相葉さん、悪いことは申しません。この壁、元に戻しませんか? 今のままでは、もしも退去される場合、高額の修繕費が相葉さんに請求されることは否めません」
早口で捲し立てると、相葉さんは苦笑を浮かべた。
よし、もう一押しだ。
「なんなら私もお手伝いしますので、考えては頂けないでしょうか?」
私は床に跪き、小首を傾げて相葉さんを見上げた。
瞬き多目でね。
「気に入ってたんだけどなぁ、この壁。だってさ、家に居ながらバスケも野球も楽しめるんだよ、凄くない?」
ええ、ええ、確かに凄いですよ…
バスケットのゴールに、ミットを構えるキャッチャーを装備した壁は…
でもそうも言ってられないんですよ…
了承して頂かなければ、今後も私がこの部屋に尋ねる口実がなくなってしまいますから。
「お気持ちは痛いほど分かります。でも…」
私は相葉さんが感慨深気に壁を見つめる隙をついて、素早く目薬を射した。
泣き落とし作戦だ。
「えっ、そんな、管理人さん、泣かないでよ…。オレ、元に戻すからさ、だからさ、ね?」
フッ…、案の定まんまと引っかかったね?
私の作戦は成功だ。
それからというもの、私は相葉さんの部屋に足繁く通った。
勿論、壁の改修が目的ではあったが、いずれは…
先のことを考えると、私の胸は高鳴る。