第4章 ♥ギラついたアクター
監督の掛け声と共に、スタッフがティッシュを持って俺の元へ駆け寄ってきた。
箱から何枚か取り、それでMJをキレイキレイしてやる。
「で、新人さんはどうなったの? 連絡、取れた?」
あれからけっこうな時間が経っているんだ、連絡の一つぐらいあったっておかしくはない。
「あの…それが…」
あっ、そ…
口篭るスタッフの様子から察するに、何の音沙汰もない、ってことね。
「どうするぅ、潤ちゃん? 撮影は後日ってことにしてぇ、今日は終わりにしちゃう?」
MJを凝視したまま、監督が心底残念そうに言う。
「いや、それだと俺のスケジュールがね?」
売れっ子の俺のスケジュールは、ちゃんと確認していないが、おそらくいっぱいに詰まっていることだろう。
「そぉよねぇ…。ほんと、困っちゃうわよねぇ…」
ブツブツ言いながら、監督はベッドサイドに腰を下ろし腕を組んだ。
「あらぁ、潤ちゃん髪が乱れちゃってるわよぉ?」
監督の手が俺の前髪にかかった。
「ちょっとぉ、そこのアンタ? ボケーっとしてないでさぁ、ちゃんと仕事なさいよぉ?」
言って監督が指さしたのは…さっきのメガネさん。
「あ、あぁ、すいません…」
慌てた様子を見せることなくメガネさんは顔を上げ、櫛を手に俺の髪を撫で始めた。
「君…」
今度こそ俺の手は、メガネさんの手をしっかり捉えた。