第12章 ♥家”性”夫は見た?
前日の夜から俺は準備に余念がなかった。
大きめのボストンバックに、フリフリがたっぷり施された純白のエプロンと、フィット感バッチリのビニール手袋。
そして真新しい靴下。
あとは…
そうだ、マニュアルにもう一度目を通しておこう。
まぁ、”マニュアル”とは言っても、ごく一般的な常識とも言える項目ばかりなのだが。
俺は研修で習った通り、踵を揃え、爪先は90度に開いて、姿勢を正して立つと、両手をお臍の前で品良く重ねた。
そして大きく深呼吸をすると、口角を少しだけ上げた笑顔を作った。
マニュアルは何度も目を通して暗記してある。
その1、依頼主のご要望には可能な限りお応えする。
その2、依頼主のプライバシーは外部に漏らさない。
その3、全身全霊を込めて依頼主のお世話をする。
そして、もしかしたらこれが一番注意すべき点なのかもしれない。
その4、依頼主に”恋愛感情”を持ってはいけない。
以上の注意を守れなかった場合、厳しい”罰”が与えられることになる。
どんな”罰”なのかは…知らないし、それについての噂も耳にしたことはない。
だがしかしだ、俺には守り切る自信がある。
そうでなければこの”職”を敢えて選択はしない。
さぁ、明日に備えて今日はゆっくり休むとしよう…