第8章 力と代償
風間さんからの命令で東地区の新型を中心としたトリオン兵の討伐をしていたが、太刀川さんが来るので基地周辺の防衛へ向かえ、との連絡が忍田さんから来た
『他の人型は放置でいいんですか?私なら通常トリガー使いを倒せる自信があります』
『琥珀の実力は把握しているつもりだ、しかし今から向かっても間に合わないだろう。ならば人型で空いた場所を君で埋めてもらいたい』
『…了解しました、どの地区に行けば?」
忍田さんの返事を待ったが、何故か応答が来ない
そればかりか、ザザーと砂嵐のようなノイズが響くだけ
…何かあったのだろうか?
『風間さん、忍田さんと通信が…風間さん?』
風間さんに連絡しても繋がらないとなると、司令室がやられている訳ではないらしい
本部に何かあったと考えるのが妥当だろう
「嫌な予感がする…」
とりあえず、基地周辺のトリオン兵を片づけるのも必要だが本部に何があったのか確認するのが先決だと思う
中には動けない諏訪さんや、エンジニア達技術班…非武装職員がたくさんいる
諏訪隊や風間隊、当真先輩達がいるからとはいえ、万が一人型が何かしらの方法で本部を攻めていたら…
確実に、太刀打ちできないだろう
そう考えた私は、足を触り声を紡ぐ
「『悪戯神の靴』」
そういうとフワッとトリオン体がもっと軽くなる
くるぶし辺りに輝く羽がつくこの能力は、移動速度を大幅に上昇させること
軽くなった体で私は本部に通じる入り口へと走り出した
ブラックトリガー、『茨姫』
その名の通り、普段はトリガーの形ではなく薔薇のピアスの形状になっているのが大きな特徴だろう
これは、私の大事な人の大事な人……つまり義姉さんとなるはずだった人の黒トリガーだ
東金華さん、黒トリガーとなった時点で死亡した元ボーダー隊員だ
私の兄の隊に所属していた彼女は、出水先輩のシューターとしてのいろはを教えた…所謂師匠というやつだった
私も教えを請おうと思い、入隊したときには既に他界していた
美しい人だった
トリオンキューブをひらひらと花びらが舞うように辺りに散らす様は、戦う兵士というより美しく舞う踊り子を彷彿させたらしい
そんな人が亡くなったのは、愛する人を守るためだった