第4章 G線上のアリア
きっと大野さんが受けた心の傷は、きっとこんなもんじゃない。
その証拠に見開いた瞳には、今にも零れ落ちそうな滴が溜まっていた、
「…なんなんだよ、お前…」
酷く冷えた声。
両の手に再び込められた力。
「“報酬”だって…“金が欲しくて身体売ったんだ“、って…。自分の中でそうやってケリ付けてんのに…。なんだよ…」
大野さんは俺を押し退けるようにして立ち上がると、俺の目の前でセーターを脱ぎ捨てた。
露になった肌に、無数に散らばる赤く鬱血した痣と、手首に痛々しく残る拘束の跡。
俺は思わず目を背けた。
「見ろ…よ…ちゃ…んと…」
跪き、俺の手を取ると、痣の一つ一つを指先に確かめさせるように触れさせた。
「これも…これ…も、みんな…」
だんだん乱れていく呼吸に合わせて上下する肩。
触れた肌に感じる、通常よりも高めの体温。
止められない涙が頬を伝い、俺の手に落ちた。
「しょ…く…ん…、助け…て…」
すがる声は酷く掠れていた。