第15章 二人の記念日
俺の胸に顔を埋めてしゃくり上げる智君の背中を撫でながら、柔らかい髪の中に頬を埋める。
智君の甘い匂いが、俺の鼻孔を擽る。
「…バカ」
その言葉に、智君が少しだけ顔を上向かせる。
「ほんと、バカ」
赤くなった鼻の頭をキュッと摘まんでやると、智君の泣き顔が、膨れっ面に変わった。
「馬鹿じゃないもん…」
「だって、そうでしょ? こういうのってさ、ほんとは俺が智君に渡さなきゃいけなかったんじゃない?」
違うな…
本当は俺が智君に渡したかったんだ。
なのに先を越されてしまった俺は、ちょっとだけ自分が情けなく思えてきて…
”あっ…”と小さな声を上げた智君の左手をギュッと掴むと、左手薬指の付け根に、一つキスを落とした。
「…ごめん。俺、自分のことばっかで、翔君の気持ち考えてなかった…。ごめん…」
まるで今にも消え入りそうな声で謝る智君。
「ばか、謝ってんじゃねぇよ。俺のために頑張ったんでしょ? だったらもう謝らないで? ね?」
握ったままの左手薬指に、一回り小さなリングを通していく。
それを智君の視線がジッと追う。
そして根元までキッチリはめ込むと、今度は俺が智君の前に左手を差し出した。
「嵌めてくれる?」
「うん!」
智君の指が俺の左手薬指にリングを通していく。
俺はそれをジッと目で追った。
「ありがと、智…」
普段は呼ばない呼び方で名前を呼ぶ。
そして触れるだけのキスを交わす。
しっかりと絡めた俺達の左手薬指に光るシルバーのリングが、時折ぶつかってはカチンと音を鳴らした。