第12章 愛の夢
俺はおばちゃんの指さす方をチラッと見て、小さく頷いた。
おばちゃんはそれを見て、無言で笑って見せた。
「大野さん、翔さん今日は帰るって…」
和が俺の肩を叩いた。
「そう、なの?」
一緒にいられる。
そう思っていたのに…
気が付いたら俺の手は翔君のジャケットの裾を握っていた。
「ごめん、明日学校でどうしても外せない会議があるんだ。だから…」
「俺こそ、ごめん…。我儘言って…」
翔君の腕が俺をグイッと引き寄せた。
腕の中にスッポリと抱き締められる。
「明日の夕方、迎えに来るから。待ってて?」
「うん。待ってるから…」
俺の背中に回された手がゆっくり離れて行く。
「今日はゆっくり休んで?」
「うん…」
「じゃ、明日…」
「うん、明日…」
翔君の唇が俺の額にそっと触れた。
「翔ちゃん、ここ外だよ?」
相葉ちゃんの声に我に返ったのか、翔君が顔を真っ赤に染めた。
「じゃ、行くわ。ニノ、悪いけど…」
「分かってますよ。”奥さん”はちゃんと責任もってお預かりしますから」
奥さん、って…
恥ずかしいんだけど、それ…
翔君が車に乗り込み、エンジンをかけた。
窓から出した片手をヒラヒラとさせながら、車が走り出した。
「中、入ろ?」
いつまでも翔君の車を見送っていた俺の背中を、和が押した。
その夜、当然のように差し出された和の手に、俺は甘えることなく眠りに就いた。
「愛の夢」完