第12章 愛の夢
行かないで…
もう離さないで…
声にならない言葉だけが、涙と一緒に溢れ出して止まらない。
泣いたらまた苦しくなるのに…
もう苦しみたくなんかないのに…
分かってるのに、でもどうしても止められない俺は、喘ぐように藻掻きながら翔くんの胸に顔を埋めた。
「ごめんね…ごめんね、智君?」
繰り返される言葉…
そしてギュッと抱きしめてくれる腕。
和の言う通りだ。
翔くんの腕は、誰よりも暖かい。
「しょ…く、ど、して…?」
苦しくはない。
苦しくないのに言葉が思うように出てこなくて、俺は涙でぐしゃぐしゃになった顔を、翔くんに向けることしか出来ない。
「電話…途中で倒れたでしょ?」
「電…話っ…て…?」
「雅紀の電話、出たの智君でしょ?」
そう言われて、漸く俺は思い出した。
あの時、相葉ちゃんのスマホにかかってきた翔くんからの電話、俺出ちゃったんだ。
でもその後の記憶が、全くない。
それにどうして俺がここにいること、翔君が知ってるの?
疑問ばかりが次から次へと湧いてきて、俺は混乱する頭を抱え込んだ。
「さ、智君? どうしたの、大丈夫? 頭、痛いの?」
「…大丈夫…なんともない…から…」
そう答えるのが精一杯だった。