第11章 Amazing Grace
夢を見ていた。
懐かしい風景…
明るい笑い声…
懐かしい友の姿…
みんな大人になったのに、何故か俺だけはあの頃のまま。
思い通りにならない感情を持て余し、いつもどこか鬱屈した思いを抱えていた、あの頃の俺がそこにはいた。
目が覚めてふと思う。
あの頃の俺と、今の俺…
何一つ変わっていないじゃないか、と…
大人になったのは見た目だけで、心はあの頃のまま何も変わっちゃいない。
自分の欲望を満たす為に人を傷つけた。
でも、手に入れた、そう思った瞬間、急に怖くなって逃げ出そうとする弱虫な俺。
最低だな…
許されるのならば、あの頃に戻りたい。
あの頃に戻って、あの頃の自分に唾の一つでも吐いてやりたい。
叶わない願いだけが胸に溢れた。
俺は再び車を走らせた。
今度はしっかり目的地を決めていた。
全てを無くしたっていいじゃないか。
もう一度始めからやり直そう。
またいつかこの場所に戻れるように…
いつか心から笑えるように…
ゼロから始めよう。
俺はパスポートと、最低限の荷物を手に空港へと向かった。
「Amazing Grace」完