第11章 Amazing Grace
陽が沈み、吹き付ける潮風に身体が冷えてきた頃、俺は漸く車に戻った。
助手席に置きっ放しになっていた携帯が、着信を知らせるランプを点滅させていた。
翔からだった。
メッセージは入っていない。
俺は着信履歴から翔に電話を掛けた。
「もしもし、潤?」
数コールもしない内に電話の向こうから翔の声がした。
「なんだった?」
「いや、ニノから聞いたんだけど、お前仕事で海外行くんだって?」
「まぁな…」
歯切れの悪い俺の言葉に、自然と翔の口数も少なくなる。
「いつ帰って来る?」
いつ、なんて実際考えたこともなかった。
行き先すら決めてないんだから…
「同窓会までには帰ってくるよな? お前幹事だし」
そうだった。
そんなことすっかり忘れていた。
「あぁ、そうだな。それまでには帰って来るよ」
電話の向こうで翔が安心したように息を漏らした。
「…色々、ごめんな?」
「え、何言ってんの、お前…」
不意に口を突いて出た言葉に、翔の声のトーンが下がった。
「いや、何でもない。じゃ、またな…」
俺は翔のそれ以上の追及を逃れるため、一方的に通話を終了させた。
翔は”勘”のいい奴だから、きっと勘付いたはずだ。
俺はプライベート用のスマホの電源を落とした。