第8章 椿姫
大人の、それも男が3人で入るのは、当然だけど窮屈で、風呂から上がる頃には、疲れを取るどころか余計に疲れきっていた。
風呂上りの火照った身体でリビングに戻ると、母ちゃんがビールを出してくれた。
俺達はそれを一気に煽った。
「ぷはぁ〜、うめぇ〜」
冷たいビールが全身に染み渡る。
「布団敷いといたからね?」
母ちゃんがリビング横の和室を顎でクイッと指す。
「さとちゃんは私と寝るかい?」
母ちゃんのお誘いに、またしても大ちゃんが固まった。
俺達は文字通り“川の字”になって布団に潜った。
大ちゃんを真ん中に、ね…
でも、そんな直ぐに眠れる筈もなくて…
少しだけ身体を起こして、大ちゃんの向こう側の和を見た。
和の手は、
早々と眠りに落ちた大ちゃんの手の中にあった。
分かってはいても、少しだけ妬けた。
俺の視線に気付いた和がくちびるに人差し指を当てた。
『シーッ』って…
暫くすると和の寝息が聞こえてきた。
俺はそっと布団を抜け出し、音を立てないよう部屋を出た。
自分の部屋に入るとスマホを手に取った。
アプリを開き、短いメッセージを送った。
直ぐに“既読”がついたものの、返信はない。
諦めてスマホを伏せようとした時、メッセージの受信を告げる着信音が部屋に響いた。
『わかった』
返って来たのは短い一言だった。
「椿姫」end