第18章 信愛
〔櫻井side〕
あの事故以来、頭の中に
霧がかかったみたいで、はっきりしない。
正確には、重要なことがポッカリ
抜け落ちたみたいな、そんな感覚...
それを、『ニノとのこと』なんだと、
そうなんだと...自分に言い聞かせてみても、
霧は晴れない。
それどころか、
頭の中には、疑問符が渦巻いていく。
『ニノとつき合ってた..?』
『ニノは男だよな?俺の記憶の中にあるのは、
女の子との逢瀬しかない...』
『俺は、ニノが...男が...好きだった?』
『いったい、俺とニノは、
どんな風に愛を確かめ合ってたんだ??』
早く答えを知りたくて、俺は焦っていた。
ニノの横顔を盗み見る。
確かに、その辺の女の子より、
ずっと可愛い顔をしている。
口角がキュッと上がっていて赤い唇...
悪戯っぽいキラキラした瞳...
俺に愛されて、ニノは
どんな顔で応えていたのか...?
『焦って思い出そうとしなくてもいい』
病院の先生はそう言った。
でも、俺は早く知りたかった
俺が、何を見て、
何を感じていたのかを...
俺はきっと、早く本当の自分に
戻りたかったんだ。
霧が晴れた向こうに行きたかった。