第17章 忘却
担当の先生に話すと、
急いで専門の先生が駆け付けてくれ、
診察の間、俺たちは別室で待っていた。
膝の上で、両手の拳を握りしめる俺に、
松潤も、かける言葉が見つからないらしく、
2人はずっと黙ったままだった。
そこに、脳神経外科の先生が、
先生「お待たせしました。」
と現れた。看護士さえ同席させず、
俺たちは3人で、顔を突き合わせた。
「..........」
息を詰めて、先生の言葉を
待っている俺たちに、先生は、
言葉を選んで話し始めた。
翔さんは、外傷もなく、
MRIの結果を待たないと、
正確には言えないが、
恐らく大丈夫だということ。
受け答えも、反応も、
至って自然でおかしいところはない...
.....ただひとつ....
つき合っていた大切な人の存在だけを、
…そういう人がいたことを、
忘れてしまっているんだと.....
(そんなことってあるの??
松潤のドラマじゃないんだから..)
俺は、耳鳴りがして、先生の言葉が、
聞こえてこない。
「大切なことだからこそ、
その記憶を守るためにバリアーを張り、
その中に閉じ込めてしまったんでょう。」
松「思い出すんですよね!?」
そう詰め寄る松潤に、
先生「そう思います。ただ、それが、
明日なのかもしれないし、
10年かかるかもしれないし...
何とも言えません。」
松「10年.....」
絶句する松潤に先生は、
「他は前と変わりありませんから、
仕事には差し支えないでしょう」
と簡単に言い、
先生「お大事に」
と部屋を出て行った。