第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「ラビ、いいの? 花火…」
「んー?」
からんころん、と下駄が鳴る。
南の手を引いたままやって来たのは、祭りの入口に立つ大きな鳥居の傍だった。
皆、花火が打ち上げられるだろう場所に密集してるから、此処辺りには人がいない。
此処なら人混みに潰される心配もねぇし。
慌てた様子で声をかけてくる南に、笑って足を止める。
「此処なら人混みに邪魔されずに、花火が見れるだろ?」
「でも…こんな所からじゃ、木が邪魔して見えないよ」
確かに、鳥居の周りは木々が生い茂っていて小さな林みたいになってる。
花火見学スポットとしては最悪さな。
…普通に見れば、だけど。
「大丈夫さ」
不思議そうに尋ねてくる南に、軽く笑って腰のホルダーに手を伸ばす。
取り出した鉄槌をくるりと指先で回して巨大化させれば、それで気付いたのか。
南の顔がはっとして──…お、青褪めた。
「ま…まさかその鉄槌伸ばして、先端から見ようとかそんな魂胆なんじゃ…」
「魂胆ってなんさ。名案って言ってくんね?」
「っ! 嫌だからね私っそれならラビ一人で見てきて下さい!」
「なんで。落ちねぇようにちゃんと支えてやっから」
「無理! 命綱なしで棒切れ一本の上に乗るとかッ普通誰もしないから!」
予想が確信に変わった途端、南はぶんぶんと勢いよく首を横に振り始めた。
なんさその棒切れって言い方。
よっぽど嫌なんさな…デンケ村での鉄槌移動がトラウマにでもなってんのか。
あん時の南、顔真っ青にしてたもんなぁ。
…ま、でも南の予想は半分当たって半分外れなんで。