第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
「あの…リーバー班長、午後までに終わらせたいので…仕事に戻ってもいいですか?」
「…ああ」
顔色を伺うように聞いてくる南に、仕方なしに頷いてやる。
再びデスクに向き直る南の机には、見慣れたマグカップ。
その内側は一体何杯飲んだのか、珈琲の跡で薄茶色に染まっていた。
…そういやここ最近、徹夜並みに仕事してなかったか。
「……」
……限界が来なけりゃいいが。
「………やっぱりな」
そして午後。
薄々感じた予感は当たって、デスクに潰れて寝入ってしまっている南の姿につい額に手を当てて溜息を零した。
「…本当、頑張り過ぎる節があると言うか…」
今日中に終わらせるべき仕事は、終わらせたらしい。
それで気が緩んで落ちてしまったのか。
処理を終えた書類に目を通しながら、どうしたものかと考える。
半日だけなら、これで南の仕事は終わりだ。
このまま此処で寝かせるより、仮眠室か自室に連れていって休ませた方がいい。
とりあえず起こすのは忍びなくて、運んでやるかと肩に手を触れた時。
「南ー、仕事終わっ……ありゃ」
もうこの研究室内で当たり前に響くようになった、エクソシストの声がした。
「ラビか」
振り返れば案の定、勝手知ったる顔で研究室に踏み込んでくる赤毛の青年。
此処はお前の寛ぎ場じゃねぇんだけどな。
「南の奴、寝てるんさ?」
「ああ、最近徹夜ばっかしてたから」
デスクに潰れている南を覗き込みながら、ラビが密かに眉を潜める。
だが俺の位置からはその顔は見えなくて、溜息混じりに言葉を続けた。
「半日休暇取る為にな。仕事詰めてたらしい」
「……」
「…ラビ?」
返答のないラビに不思議に思って目を向ければ、今度ははっきりと見えた。
「…だから無理すんなっつってんのに…」
寝ている南を見下ろして、複雑そうな顔をしているラビの顔が。
嬉しいような、不満のような。そんなどうとも取れない顔。