第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
✣
椅子に座っている姿が埋もれる程、資料が積み上げられたデスク。
その中で仕事に没頭している人物の頭が、微かに見える。
それはふらふらと、なんとも覚束無く揺れていた。
「南」
「……はい?」
見兼ねて後ろから声をかければ、ワンテンポ遅れて揺れていた頭が振り返る。
見えたのは、目の下にくっきりと隈を作った酷い顔。
この科学班でこんな顔は皆ザラにしてるが、たった数日でここまで酷い顔を作れる奴も珍しい。
それだけ、最近の南の仕事への没頭ぶりは酷かった。
「お前最近、仕事根詰め過ぎてやしねぇか」
「ああ…えと、大丈夫です」
思わず眉を潜めて言えば、へらりと力ない笑みが返ってくる。
大丈夫に見えねぇから声かけてんだよ。
「そこまで急ぎでもないだろ。今日一日で終われるだろ、これ」
「ぁ…駄目、です。…班長」
「駄目? 何が」
適当に一枚書類を手に取れば、恐る恐る取り返される。
余程急いでいるらしい、南の手は止まることなく書類の上でペンを走らせていた。
「今日は私、半日で上がるので。この仕事も全部終わらせてないと…」
「半日?」
「はい。あ、コムイ室長にはちゃんと許可書にサイン貰ってるので…っすみません提出してなくてっ」
言って気付いたんだろう。慌ててデスクの引き出しから、半日休暇の許可書を引っ張り出して差し出してくる。
見れば確かにそれは、今日の半日休暇の許可を提示するものだった。
「お前な…こういうことはもっと早く言え」
「すみません…」
余程仕事に追われていたんだろう。
しゅんと周りの書類に埋もれて謝る南をそれ以上は咎められなくて、仕方なしに溜息をついた。
というか、だからこんなに仕事根詰めてたのか。
半日休暇取るだけだってのに…改めてこの職場は仕事量がいつも多い。