第17章 初恋がロリコン男である件について【バク】
天使みたいな子だな、と思った。
父親であるエドガーさん譲りの綺麗な金髪に、色素の薄い瞳。
母親であるトゥイさんを思い起こすような、冴えた端正な顔立ち。
初めて会ったのは記憶も朧気な遥かに幼い頃だから、初めての印象なんて憶えていないけど。
小さい頃は、確かにバクのことをそんな好意の目で見つめていた。
だけど齢4歳にして突き付けられた失恋に、すっかりそんな意識は飛んで。
以降、良くも悪くも弟のように見てきた。
年齢は同じなんだけど、幼少期はこの広いアジア支部でよく迷子になっていたバクだから。
いつも私が見つけては、手を引いてエドガーさんやフォー達の下へ連れて帰っていた。
同い年なんだけどね。
小さい頃は、本当に頼りなかったなぁ。
…今はどうかと言われれば、多少は頼もしくなったと思う。
トゥイさんの後を追うように、しっかりアジア支部支部長の座に着いたバク。
隠れ努力家だから、科学者としての実力も確かだし、チャン家という魔術師の家系もちゃんと継いでいる。
科学者としては教団本部室長のコムイ君に多少劣るところはあるものの、間違いなく魔術師としての力は歴代で群を抜いている。
だけど、幸か不幸かライバル視してるコムイ君の妹リナリーに一目惚れしたもんだから、さぁ大変。
初めてリナリーと会った時、まだほんの10歳前後の少女じゃなかった?
確して我が幼馴染は、生粋のロリコン男になってしまった訳だ。
「───つっかれたぁ…」
その日一日の仕事を終えて、部屋に帰り着いた頃には20時を過ぎていた。
今から食堂に行くのも面倒だなぁ…大体、そんなにお腹も空いてないし。
今日はもうこのまま寝てしまおうかな…。
「あ。お風呂どうしよ…」
こういう時、お風呂場が別となっているのは地味に面倒臭い。
シャワールームくらい付けて欲しいなぁ…此処。
ぱふりとベッドの上に寝転んだまま、色々と諦めた意識がうとうとと落ち出す。
だけど、まだ化粧も落としてない。
服だって仕事着のまま。
お風呂に入らなかったら明日が後々面倒だし。
「………」
仕事に尽くしてはいるけど、最低限女としての意地は守っておきたい。
荒れたガサガサの肌でバクの前に出たくないし。
「……化粧落とそ」
色々葛藤した挙句、最初に優先したのはそれだった。