第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「一度ならず二度までも、いい度胸だな…そんなに斬り刻まれたいか」
「いや、違う!そうだけど違うの!話聞けって神」
「望み通り細切れにしてやる」
「望んでないからァア!!」
膨張する殺気に、のどかだった墓地が一気に地獄へと変わる。
雪を抱いたまま、ルパンは丘を一直線に駆け下りた。
「次元!助けて!!」
「俺ァ知らねェ。手を出したお前の責任だ」
「まだ未遂だっつの!!」
「待てテメェ!雪を置いていきやがれ!!」
「ひぃいい!雪ちゃんはオレの保険!!」
呆れた溜息と共にそっぽを向く次元を通り越し、更に丘を下る。
追い掛けてくる殺人鬼に身を震わせれば、腕の中の雪がエールを送った。
「頑張れルパン。ユウに捕まったら私がどうにか止めて見せるよ。でも私の体は…これで許して」
ふわりと、頬に触れる柔らかな感触。
目を丸くするルパンに、神田の死角から頬にキスを送った雪は、ぱちりと片目を瞑り笑った。
「約束、守ってね」
驚いたルパンの顔が、してやられたと悟る。
「オレを騙したな?」
「ただの賭けだよ。ユウがルパンじゃなく私に牙を剥いたら終わりだったし」
「あいつが雪に牙を剥くかよっ?」
「余裕で。暴力の鬼だもん。てことでしっかり逃げてルパンっ」
「あのなァ!オレ様アシじゃねぇんだけど…!」
スリルを求める心に舞い込んだ、生き様も生き方も全く異なる女性。
惹き付けられて止まない彼女の一挙一動に白旗を上げて、ルパンは愉快そうに笑った。
「全く、本当にお前は良い女だよ雪!」
平坦ではない凸凹な道。
長い間駆けてきたその道は、昔に思い描いていたものとは大分変わった。
それでも尚走り続ける大泥棒には、一つの後悔だってありはしないのだ。
*さよならの前に*
(モンキー・パンチ先生へ)
(数多の愛を込めて!)