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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)



「どしたの、急に」

「気になったから聞いてるだけ。答えられない?」

「いんや。雪は良い女だぜ」

「…手に入れたいって思う?」

「そりゃあもう。え、くれるの?雪ちゃん」

「……いいよ」



更に一歩。
距離を縮めた雪の手が、ルパンへと伸びる。



「ただしあの宝物と引き替えにしてくれるなら、ね」






"綺麗な女はごまんといるが、ここが良い女はそういねぇ。そういう女は、宝と引き替えにしたって欲しくなるもんだ"






隠し通路の中でルパンが口にした言葉を覚えていたらしい。
これは雪なりの駆け引きだ。
触れるか触れないかギリギリの距離で問い掛ける。
ルパンの頬に触れる手前で手を止め、じっと雪は見上げた。



「宝物に手を出さないって約束するなら…あげる」



誘うように、しかし緊張した声に伏せがちになる瞳。
不二子のようにスマートな誘いではないが、頬を染めてまで応えようとしている姿は、別の意味で男なら胸が騒ぐ。



「目の前でこんなお宝を見せられちゃあな」



慣れた手つきで雪の腰を抱くと、ルパンは男の顔で笑った。
密着する体に、吐息が触れそうな程に近付く互いの唇。



「いいぜ、代わりに雪の体を味わ───とォオ!?」



ザンッ!



しかし埋めようとした唇の距離は、重なり合う前にルパンの悲鳴で締め括られた。
咄嗟に雪の体を姫抱きにして頭を下げたルパンの真上で、空を切る白い刃。
数本、ルパンの髪の毛を斬り取ったその刃は、間合いを詰めた黒い影が握っていた。



「…何してる」



心地良い晴天だと言うのに、何故かその場だけに黒く濃い影が落ちている。
殺気立った低い声を発するその人物の顔も、まともに見えない。



「今、確実に首を狙ったよな…」

「何してるって聞いてる」

「ぃ、いや…」

「ルパンに、ホテルの宝物と引き替えに体を寄越せって」

「雪ちゃぁああん!?何言ってんの!?!!」



大人しくルパンの腕に収まってはいるものの、雪は真顔で間髪入れず、ルパンを指差し鬼の形相の神田に報告した。



「何って、真実」

「そうだけどね!?」



確かに間違ってはいない。

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