第5章 ◇8/10Birthday(ラビ)
✣
別にさ、誕生日に好きな人と一緒にいられないからって、そこまで落ち込む程ガキじゃない。
ただ、なんとなく残念だなぁとは思う。
オレの"ラビ"って名前は49番目の名前。所謂偽名だ。
ブックマンとして生きる道を選んだオレは、本当の自分の名をそこで捨てた。
でも…自分が生まれた日まで捨てた訳じゃない。
オレがオレとして生まれた日。
変わらないオレ自身の情報。
他人からすれば当たり前の情報でも、オレにとってそれは何気にでかいことなんさ。
…こんなことジジイに知られたら女々しいって呆れられそうだから言わねぇけど。
だから、そんな日を自分が特別に想う人から「おめでとう」って祝ってもらえるのは、何気にオレにはでかいことなのかもしれない。
ただ、なんとなくそう思っただけ。
「ねぇ、ラビ」
「ん?」
少し。ほんの少しだけ沈んだ気持ちを、隣に立つ想い人の声で切り替える。
気持ちを切り替えるのは、昔から慣れっこだ。
……ま、仕方ないか。
帰ってきたら南に意の一番に祝ってもらおう。
「寄り道したい所あるんだけど。いいかな」
「寄り道? いいけど…手短にな。あんまり遅くなると、科学班の連中が煩いさ」
「うん、わかってる」
こくりと頷く南が、"寄り道"の場所を目指す。
元々知ってた場所なのか、迷わず辿り付いた場所は此処らでは珍しい、和菓子専門店だった。
…なんで和菓子?
科学班の皆に差し入れとか?
「何買うんさ?」
「んー、ちょっとね」
問えば、南は曖昧に笑って応えるだけだった。
…なんさ?