第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「な、なんの話ですかな…?」
「しらばっくれる気かよ、あんな詐欺紛いなことしやがって。お陰で寿命が三年縮んだぜ」
「あれくらいで三年も縮んでちゃ世話ねぇな」
「うるせ!雪だって被害に合ったんだぞッ」
続いて姿を現した神田のぼやきに、次元が噛み付く。
余程騙され驚かされたことが気に喰わなかったのだろう。
「ぉ、お客様困ります!これはホテルの私物故、勝手に持ち出されては…!」
「あ?だからしらばっくれるんじゃねぇよ!」
認めない姿勢のアルドルフォに、次元が声を荒立てる。
どう白状させるべきか、考え倦ねていた神田の目が不意に余所へと向いた。
目を止めたのは、部屋の横の扉。
僅かに感じた人の気配に、六幻の鍔を親指で僅かに押し上げ刃を見せる。
バンッ!
そこからの行動は一瞬だった。
次元とアルドルフォが目を向ける前に、扉へと迫り叩き開け、同時に20cm程鞘を抜いた刃を目の前の気配に向ける。
「「!?」」
次元とアルドルフォが口を噤み動きを止めた時には、既に神田の手は獲物を捉えていた。
「ひぇ…ッ」
「…お前が悲劇の花嫁か」
扉の向こうに立っていたのは赤毛の少女だった。
青いドレスを身に纏い、顔には血糊がべったりと付着している。
眼孔をかっ開いた神田の威圧に押されて、じわりとその目に涙が浮かぶ。
細い首筋の前に刃を向けたまま、神田は目の前の少女が現実に存在している人間だと理解した。
これで言い逃れはできまい。
幽霊は単なる人間が化けていただけのものだ。
「さぁ白状してもらおうか」
少女の肩口の服を鷲掴んで逃げ道を失くした神田が、ゆらりと振り返る。
「こいつを本物の幽霊にされたくなかったらな」
「そ、そんな…!」
「ふぇ…!パパぁ!!」
青褪めるアルドルフォと泣き叫ぶ少女に、神田の気配は1mm足りともブレがない。
変わらぬ威圧を向けながら脅迫する様に、次元は勢いを殺がれ思わず二人に同情さえした。
「これじゃあどっちが悪者かわかんねぇ…」