第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「酔っ払ったり寝惚けたりした客がホテルの奥に迷い込む。するとそこへ青いドレスを着た少女の亡霊が現れる」
「だからいたんだよ、クローゼットの中に」
「あれは…言われれば確かに、青い服を着てたような…」
「本当かよ…」
「あっユウその目信じてない」
「そんな都合の良い話あるか普通」
「普通じゃねぇから心霊なんだろッ」
「普通じゃないから怖いんだってッ」
「………(ただビビってるだけじゃねぇか)」
声を揃えて抗議する次元と雪に、神田の白けた表情は変わることなく。
ただルパンだけが一人、にんまりと口元に弧を描いていた。
「そこには続きがあってよ。亡霊から逃げた先は迷路のように入り組んでいて、自分が何処にいるのかもわからない。そして気付けば、いつの間にかホテルの外に出ている」
「ホテルの外にィ?」
「そんな道あったっけ…?」
他の客と同様、慌てて逃げてきた雪達はそれらしい体験はしていないとのこと。
ルパンが視線を送れば、渋々と神田は目を走らせていたガイドブックの記載を読み上げた。
「…"しかし実際にこのホテルにそれらしい場所はない。恐らく客達はあの世へと通じる道へ足を踏み入れてしまったのではないだろうか。"…は、馬鹿らしい」
「そうだなぁ。要約すれば、つまりこのホテルには秘密の隠し通路があるってことだ」
「隠し通路?」
「ああ。恐らくお宝は其処だぜ」
「なんでそんな解釈になるの?」
「わかんねぇか?何かの拍子で通路に足を踏み入れた奴がいても、幽霊騒ぎで誤魔化しちまおうって魂胆だよ」
ちびちびとワインを口に含む雪とぐびぐびとワインを喉に通す次元に、ルパンもまた新たなグラスに手を伸ばす。
「てことは、こいつらが見た幽霊ってのは偽物か」
「ああ、ホテルの人間が演じてたんだろ。宝も隠せて客も呼べて、一石二鳥って訳だ」
トクトクと注いだワインを味わうことなく、グラスを軽く揺らしながら赤い水面にルパンは目を細めた。