第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「よくそんな度胸で、こんな仕事やってられるな」
「そっちこそ。よくこんな場所に宝探しに来られるね。ほとんどルパンのお手柄じゃないの?」
「なんだと?…ルパンは俺の意見なんざ聞かずに、宝と聞きゃあ飛んで行く奴なんだよ」
「嫌なら来なければよかったじゃない」
「あいつ一人じゃ其処らの女にでも引っ掛かって宝を貢ぐのがオチだ」
「…なんか言い訳っぽい…」
「マジで一丁前に口叩く奴だな…良い度胸だ」
「いふぁいっ口引っはらないれよっ」
「こんなちんちくりんのどこにルパンは惹かれたんだか…不二子の半分も無い胸で」
「は?…今なんてった」
「あ?」
「今、なんて、言った」
「不二子の半ぶ」
「はぁああ!?女の顔は胸だとでも思ってんの!?これだからシモしか考えられない脳味噌無し男は!」
「おい誰が脳味噌無しお」
「うるっさいまだ私のターンだから!誰がちんちくりんだそっちこそ全身真っ黒な不審者みたいな格好して!!」
「何がターンだ!これは俺の一張羅だ!」
「ダサい!」
「んだとォ!?」
どんどん上がるボリュームに、言い合う二人の足も自然と速くなる。
「そんな色気のねぇ格好しかしねぇから、あんな短気な男しか釣れねぇんだよ!」
「次元には関係ないでしょ!?大体、私はユウさえ釣れればそれでいいからッ他の男なんて要らない。特に黒一色でしかコーディネートできない、顔を帽子で隠した不審男なんてね!」
「言いやがったな…!おいルパン!こんな口の悪い女のどこがいいんだ!」
「それはこっちの台詞!こんな無神経な男をよく相方にできたよね!」
バン!と互いの手で勢いよく開けた部屋の扉。
互いの怒りをルパン三世という男にぶつける二人に、出迎えたのは。
「…あ?」
「…れ?」
部屋の電気が全て消された、暗いホテルの内装のみ。
「おいルパン。いねぇのか?」
「ユウ?何処行ったの?」
言い合いを止めて二人して相方を捜すが、先程まで部屋にいたはずのルパンと神田の姿は何処にも見当たらない。
まるで忽然と姿を消したかのように、シンと静まり返っていた。