第16章 ◆さよならの前に(神田/ルパン三世)
「いやあ、こうしてまたおたくらに会えるとはなぁ!オレ達、縁があるんじゃねぇの?」
「偶然でしょ。そして近い」
並々注がれたワイングラスを片手に、上機嫌に笑顔を浮かべるルパン。
雪と神田は、チェックイン後に彼の誘いで次元の待機する宿泊部屋へと訪れていた。
ソファできっちり隣をキープして顔を近付けるルパンに、任務中だからと差し出されたワイングラスを押し返し断る雪は素っ気ない。
しかしそれくらいではめげないのが、ルパンという男。
「そうつれないことを言うなよ。折角だし、この機にオレと雪ちゃんの仲を更に深め」
「馴れ馴れしく呼ぶな」
「うぶッ」
ぐにっとルパンの頬に強く押し付けられたのは、硬い刀の鞘の先。
反対側できっちり雪の隣をキープしている神田が、ギラついた鋭い視線をルパンへと寄越していた。
「あと1mmでも顔近付けてみろ。首を跳ねるぞ」
「…相変わらずこっわい彼氏だな、コイツはよ」
「駄目だよユウ、ルパンは一応一般人なんだから。手なんて出したらっ」
「そうだぜ〜、オレ様しがない庶民だからよォ」
「ルパンも!そうやって煽るからユウの堪忍袋が切れるんだよ…っ」
「コイツの堪忍袋は短過ぎるんだって」
「テメェがふざけ過ぎなんだろうが」
「どっちもどっち!」
「一気に騒がしくなったもんだ…」
まるで水と油。
見た目も性格もまるで合わない二人に挟まれて、必死に場を取り繕う雪を同情の目で見守りつつも次元はぐぴりとワインを喉に通した。
ルパンを見るなり六幻抜刀し掛けた神田は、どうやら以前のパリ怪盗G事件でルパンが雪の唇を奪ったことをしっかり根に持っていたらしい。
それでもどうにか雪の説得で落ち着いたが、ひっそりと不気味に趣のあったホテル内は、一気に賑やかなものへと変わっていた。
心霊の類が得意ではない次元にとってはありがたいことだと、特に止めることもなく向かいの椅子で一人酒を堪能し続ける。