第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「そこ、開くんですか?」
「なに…簡単だ…」
長い触手のような髪束を伸ばし、固く閉ざされた天井扉に張り付く。
アレン達が見守る中、へブラスカはいとも簡単に厳重な扉を開けてみせた。
滅多なことでは作動しない所為か、ギギ、と微かに軋み音を立てて左右に開く。
むわりと舞い込んでくるのは外部の暑い空気だ。
これでは此処へ涼みに来た意味がない。
「わぁ…」
そう告げようとしたアレンの声は、椛の歓声で消えた。
「凄い…!空が近いよ、アレンくんっ」
天井扉から、二人を巻き込んだ髪束だけでなく、ゆっくりと自身も外部に晒すヘブラスカ。
此処にコムイ達がいたなら、必ず叱りを受けただろう。
しかしヘブラスカの言う通り、今此処にそれを咎める者はいない。
巨大な体を持つヘブラスカに持ち上げられれば、ぐっと空は近くなる。
しかし二人の目を見張らせたのは、それだけではなかった。
「星が沢山…!今にも降ってきそう!」
「凄い。いつもより綺麗に見えます」
「それもそうだろう…教団内は今、全ての電力がダウンしている…此処よりも夜空の方が…今は明るい…」
イギリスの孤島に設置されている新・黒の教団本部。
城のような広い敷地には、常に外灯や警備の明かりが灯されている。
しかし発電機の破壊により電力を失った今、教団は真っ暗闇。
明かりを失った孤島から見上げる夜空は、隙間なく燃える隕石が煌く星空だった。
「海もそうだが…空も同じだ…何処までも繋がっているもの…教団の空も…椛達がいたビーチの空も…」
「ヘブラスカ…もしかして、励ましてくれてるの…?」
感情を読み取るように、優しいテノールの声が椛に届く。
包帯を巻いた足を包むヘブラスカの髪束は、真綿のように柔らかい。
「花火はないが、な…これで我慢してくれ…」
するりと頬を撫でる彼女の"手"を握り締めて、椛は首を横に振った。
「我慢じゃないよ。ヘブラスカとだったから、見られた星空だもん。凄く綺麗」
「…そうか…」
「椛の言う通りですね」
椛と並んでヘブラスカの腕に抱かれ、満点の星空を見上げるアレンの顔にも優しい笑みが浮かぶ。
「今頃、皆も空を見上げているんじゃないかなぁ」