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廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第13章 ※◇◆Summer to spend with you.



「…ありがとう…」



しゅるりとヘブラスカの髪束が、まるで意志ある生き物のように椛に寄る。
しかしその動作は酷く優しく、椛の手の中から瓶を受け取った。



「本当に…綺麗だな…初めて見た…」

「そうなの?」

「ああ…私は海というものを…見たことがない…風景では、知っているが」

「そうなんですか…」



ヘブラスカは教団設立時からイノセンスを守ってきた者。
聖女と呼ばれる彼女は、幼い頃から教団の為にと身を捧げてきた。
彼女がどんな生き方をしてきたのか、椛もアレンも知らなかったが、それが人としての生き方とかけ離れていたのは事実だろう。



「ヘブラスカは、その手で対象者を探ることができるんでしょ?私の見た景色を探ることとかできないのかな…」

「感情は探れても…景色まで見通すことはできない…」

「そうなんだ…」

「だが充分だ…椛を見ているだけで…」



するりと下りてきた髪束が、優しく椛の頬を撫でる。



「お前のその目と、口と、心に触れれば、どれだけ美しい景色だったか…わかる」



この貝殻のように、と瓶を持ち上げて花咲く微笑み。
頬を撫でる髪束に手を重ねると、椛もふんわりと微笑んだ。



「じゃあ、また沢山話しに来るね」

「ああ…」

「またって?」

「椛は…よく私の所に遊びに来てくれるんだ…色んな話をしに、来てくれる…」



アレンには初耳だったが、なんとも椛らしい行為だと納得できた。



「ティエドール元帥もよく此処に来るから、ヘブラスカと私とティータイムのお友達なんだよ」

「へー…師匠とは大違いですね」



アレンの師であるクロス・マリアンは、紅茶よりも酒を好む。
ついでに女とギャンブルも。
同じ元帥という肩書きを持ちながら、何故こうも違うのかと疑問を投げ掛けたくもなるものだ。

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