第13章 ※◇◆Summer to spend with you.
「…待ってて」
「え?」
「椛?」
きゅっと拳を握り、徐に海水を蹴り進み出した椛に、雪とアレンの目が追う。
しかし彼女は振り返らない。
真っ直ぐに見つめているのは、ビーチの方角だ。
「私が神田くんを誘ってくるよ」
「え。」
「待って椛。神田を誘うって言いました?」
「うん。折角来たのに、雪ちゃんを放っておくなんて勿体無いよ」
「い、いいよ椛。誰が言ったって聞きやしないだろうしっ」
「そうですよ、あんな暑さで苛立ってる鬼に近付くなんて危険ですからっ」
「じゃあなんであそこにいるの?」
ざぶざぶと進む椛の足は止まらない。
慌てて後を追う二人の口は、椛の問いに止まってしまった。
「海にも入らなくて、バーベキューをしてる訳でもなくて、暑い中あそこに座ってるだけなのに。いつもの神田くんなら、そんな時間無駄だって教団で鍛錬とか始めそうなのに」
「た、確かに…そう言えばそうですね…」
「それでも、暑くても、苛立っても、あそこにいる理由はなんだと思う?」
「…椛にはわかるの?」
そろそろと問い掛ける雪に、椛は足を止めて振り返った。
「わかるよ。雪ちゃんがいるからでしょ」
そこには何一つ、迷いなど見当たらない。
「神田くんの行動には基本的に理由があるし、無駄なことなんてしないもん」
「それはそうかもしれませんが…疲れてたらするんじゃないですか?面倒臭いとか言って」
「あの場にいるのが一番面倒臭がってると思うよ」
「…椛、ユウの心境心得てるね…」
思わずアレンと共に頷いてしまう。
否定する言い訳が見つからない。
もし椛の言うことが事実ならば、神田があの場から動こうとしないのは自分の為なのか。
そう思えば雪の心に別の感情が広がった。
淡い、甘酸っぱいような───
「待って。じゃあどうせなら海に入って来なさいよって話なんだけど」
ではなく、申し立てたい気持ちだ。
「中途半端に居座るなら潔くなんでこっち来ないかな」
「そう!雪ちゃんの言う通り!じゃあ私誘ってくるねっ」
「「あ」」