第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「いってぇ…マジ容赦ねぇさアレン…」
「ラビが椛に変なこと言うからですよ」
「そういうアレンだってさー、誕生日まで重なってんならプレゼントは椛で♡とか言っ」
「それ以上浅ましい口を開くなら縫い付けますが?」
「ゴ、ゴメンナサイ」
笑ってる。
けど全く笑ってない。
さっきの神田くんの負のオーラ並みの黒い気配を身に纏うアレンくんの笑顔は、瞬時にラビくんを凍り付かせた。
本当に口を縫い始めそうで怖い。
「あ、オレ用事思い出した!もう行かなきゃな!」
わざとらしい程に音を立てて席を立つと、焦り混じる顔でラビくんが脇に置いていた小さなケーキ入りの箱を掴む。
「じゃあな!メリークリスマスっ」
「あ、うん。メリーク…行っちゃった」
「気にしなくていいですよ、あんなの」
そのまま兎のように飛び跳ねてバタバタと食堂を出ていくラビくん。
最後の言葉は届いてなさそうな気がする。
「どうせあれの追い掛ける先は女性なんですから」
「そうなの?」
「知りませんか?最近特に念入りにラビが入り浸ってる場所」
入り浸ってる場所?
ええと…休みの日にラビくんがよくいる最近の場所は──……あ。
思い出したのは、大量の文献と化学薬品が並ぶ研究所。
其処で知った顔で椅子に座り、何かと科学班メンバーにちょっかいを掛けていたラビくんを思い出す。
特に一番声を掛けていたのは、科学班の───
「南さん?」
「うん」
椎名南さん。
いつも目の下に隈を拵えて他の科学班メンバー同様酷い有り様なことが多いけど、休日は身嗜みもちゃんとしている女性研究員。
ラビくんの好みって確かに年上女性だったけど…そうだったんだ…知らなかった。
「そっかぁ…ラビくんも好きな人いたんだ…」
南さんは仕事熱心で話すと男女問わず誰にでも気さくな人。
研究者だから頭も良くて、でもそういうことを鼻に掛けたりしない。
同じ女性として憧れる人だ。
そういえばラビくんと仲良かった気がする。
一緒に書庫室にいる姿、よく見掛けていたし。
…お似合いなんじゃないかな、きっと。