第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】
「何?もしかしてまた喧嘩してたの?本当好きだよね…」
「好きな訳あるか。つーか遅いんだよお前、飯食い終わる所だったろ」
「ぁたッ。ちょ、これでも急いで帰ってきたんだから。寧ろ褒めてよ」
神田くんにデコピンされながらも、抗う雪ちゃん。
そこに生まれる雰囲気は、さっきまでの負のオーラなんてどこにもない。
雪ちゃんが教団でクリスマスを迎えたい人は、きっと神田くん。
あの二人がよく任務を組まされる姿は見てきたけど、今ではそれ以外でも共にいる姿を見掛けるようになった。
それは、二人が私とアレンくんのような関係だから。
…もしかして神田くんが機嫌悪かったのって、雪ちゃんを待ってたからなのかな。
「それより任務先でね、クリスマスの──」
「オイ」
楽しそうに弾んだ声を漏らす雪ちゃんを遮ったのは、神田くんの低い声。
不意に手首を掴んだかと思えば、ぐっとマントの袖を引く。
なんだろう?
「なんだこの怪我」
「怪我?……あ。」
捲った袖の下では何処かでぶつけたのか、粗削りに剥けた赤い肌が雪ちゃんの腕に残されていた。
うわぁ…痛そう。
思わず顔を顰めたくなっちゃうけど、雪ちゃんは然程気にした様子がない。
怪我には慣れてるって前に言ってたけど、あれは慣れ過ぎなんじゃないかな…神田くんに言われて気付いたような顔してるし。
「いつの間に…ああ、多分任務地で男の子を助けた時かな」
「助けたってなんだ、AKUMAでも出たのか」
「ううん、出てないよ。ただ調査場で馬車の衝突事故があって。その時にね」
「チッ…気付けよこれくらい」
「あはは、ごめん。早く帰りたくて急いでたから、頭になかった」
悪びれた様子なく笑う雪ちゃんの優先事項は、自分の怪我より神田くんのことだったらしい。
そう言われれば文句の一つも言えないのか、渋々と神田くんは口を結んだ。
凄いなぁ…あのすぐに暴言も手も出す神田くんを、ああも大人しくさせられるなんて。
流石雪ちゃん。