• テキストサイズ

廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第12章 ⓇMerry christmasの前にⅡ【アレン】



 笑顔で言えば、アレンくんは少し照れた顔で笑った。
 普段は紳士でスマートなんだけど、こうした照れ癖が少しある。
 アレンくんのそういうところ、可愛いなって思う。


「あ。見て、椛」

「なぁに?」


 照れを隠す為か、不意に木々の間で足を止めるアレンくん。
 何かと見れば、その目は真上を向いている。
 辿った先には、モミの木の間にクリスマスカラーのレースが巻かれた装飾が見えた。


「綺麗だね、こんな所までクリスマス仕様」

「うん。でもそれだけじゃなくて、」

「?」


 こほん、と軽く咳を一つ入れたアレンくんが何かを指差す。
 それは私とアレンくんの頭上。
 レースに巻かれて飾られた、丸いリースがぶら下がっていた。

 あれがどうかしたのかな?
 リースなんて、この季節は家のどこの扉にも飾られてるのに。


「あれがなぁに?」

「白い実がついているの見えます?」

「うん、変わった実だね。なんて言うのかな」

「ヤドリギです」

「やどりぎ?」


 それなら聞いたことがある。クリスマスの飾りでよく使われる木だよね。


「知ってるよ、その木なら」

「クリスマスの意味も?」


 クリスマスの意味?
 …ってなんだろう。

 笑い掛けてくるアレンくんの意図がわからず首を傾げれば、組んでいた腕を解かれて真正面から向き直された。
 …本当になんだろう?


「クリスマスに、ヤドリギの下。其処に男女が居合わせれば、することは一つです」

「………ぁ」


 人差し指を口元に当てて笑うアレンくんに、はっとした。
 それはあまりにも有名な言い伝えだったから。

 "クリスマスにヤドリギの下に居合わせた男女はキスをする"

 そんな冗談のようで本当にきちんとした言い伝えが、ヨーロッパにはある。


「で…も、此処、外…」

「大丈夫。誰もいないから」


 そうなの?
 確かにさっきから人影は見当たらないし、モミの木で視界は邪魔して隠れられるけど…その、隠れてキスって──


「椛、顔上げて」


 戸惑う私を余所に、布手袋をしたアレンくんの手がそっと頬に添えられる。

 わ…顔、近い。

/ 723ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp