• テキストサイズ

廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第2章 ◇恋の始まり(ラビ)



「お。」


 最近書庫室に向かうと、必ずと言っていい程捜す姿がある。
 今日もその姿を見つけて、思わず声が漏れた。

 天気の良い日は、窓際の席を好んで座ってる。
 雨なんかの日には、湿気を避けるかのように書庫室の奥で読書してることが多い。
 私情じゃなく仕事の延長で来てる時は、時々梯子の段に腰掛けて文献を読み漁ってたりすることもある。
 そんな姿を見た時は、ほんと仕事中毒者さなーって思ったりもした。

 …ま、オレも人のこと言えねぇけど。


「今日は仕事かな…」


 書庫室の奥の個人用の机の席で、身を屈めるようにして座っている白衣の背中を見つけて、そんなことをぼやきながら借りた本を片手に近寄った。

 前は割とあちこち捜してたけど、大分見つけ易くなったよなー。
 それだけオレが南の書庫室での習慣を、観察して知ったからってのもあるけど。


「おーい、南。また残業してるんさ?」


 気付けば目で追っていて、気付けば捜してる。
 自然と身に付いたそれは癖みたいなもんだった。


「…南?」


 声が聞こえる距離で呼んでも、その背中は振り返らない。
 もう一度呼んで、囲うように壁が作られた個人机に手をつく。

 ひょいと後ろから覗き込んで見えたのは、


「…ありゃ。寝落ちてんさ」

「…すー…」


 開いた文献に頬を付けて、すやすやと眠る南の横顔だった。

/ 723ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp