第2章 ◇恋の始まり(ラビ)
「お。」
最近書庫室に向かうと、必ずと言っていい程捜す姿がある。
今日もその姿を見つけて、思わず声が漏れた。
天気の良い日は、窓際の席を好んで座ってる。
雨なんかの日には、湿気を避けるかのように書庫室の奥で読書してることが多い。
私情じゃなく仕事の延長で来てる時は、時々梯子の段に腰掛けて文献を読み漁ってたりすることもある。
そんな姿を見た時は、ほんと仕事中毒者さなーって思ったりもした。
…ま、オレも人のこと言えねぇけど。
「今日は仕事かな…」
書庫室の奥の個人用の机の席で、身を屈めるようにして座っている白衣の背中を見つけて、そんなことをぼやきながら借りた本を片手に近寄った。
前は割とあちこち捜してたけど、大分見つけ易くなったよなー。
それだけオレが南の書庫室での習慣を、観察して知ったからってのもあるけど。
「おーい、南。また残業してるんさ?」
気付けば目で追っていて、気付けば捜してる。
自然と身に付いたそれは癖みたいなもんだった。
「…南?」
声が聞こえる距離で呼んでも、その背中は振り返らない。
もう一度呼んで、囲うように壁が作られた個人机に手をつく。
ひょいと後ろから覗き込んで見えたのは、
「…ありゃ。寝落ちてんさ」
「…すー…」
開いた文献に頬を付けて、すやすやと眠る南の横顔だった。