第4章 ◆入れ替わり事件簿(神田)
「っ…?」
ゆっくりと頭が覚醒する。
「雪っ大丈夫さ?」
最初に聞こえてきたのは、知っている声だった。
「大丈夫ですかっ?」
次に聞こえてきた声は、知らない声だった。
…いや、どこかで聞いたことがある。
聞いたことがあるけど…なんだか違和感が残る声。
誰の声、だろう…。
「おーい、雪。トんでねぇ? 大丈夫?」
ひらひらと目の前で手を振られる。
影を作って私を見下ろしてくるのは、眼帯で片目を隠した翡翠色の目を持つ青年。
…やっぱり、最初の声はラビだったんだ。
「うん…大丈夫」
なんとか手に力を入れて体を起こす。
安心させるために笑い返せば、もう一つ違和感が残った。
…ん?
なんだろう…?
「てか、雪…だよな?」
「…は?」
額に手を当てて考えてみる。
するとじーっとこっちを見てくるラビが、恐る恐るといった様子で不可思議な問いを投げかけてきた。
私は私ですけど。
「何言ってんの? 私は私です」
「いや…うん。そうなんだけど…」
片方だけ見える翡翠色の目は、じろじろと私を見て。
「なぁ、やっぱそうだってよ」
そう、隣にいる誰かに呼びかけた。
ん?
「やっぱりそうですか…」
ガッカリとした声。
やっぱりその声は聞いたことがあるようで、どこか違和感の残る声をしている。
それが誰なのか正体を知る為に私もそこへ目を向けて、
「……………は、あ?」
リアクションに失敗した。
いや、どうリアクションしたらいいのか。
全然わからなかった。
「体の調子はどうですか? 痺れとか感じてません?」
心配そうに私を伺ってくるその人。
どこか見覚えのある…というか思いっきり見覚えのある顔。
それもそのはず。
だって毎朝、鏡で見ている顔だったから。
「……私?」
そう。
其処にいたのは。
紛うことなき、自分自身の姿だった。