• テキストサイズ

廻る世界の片隅で【Dグレ短編集】

第10章 ※◆with はち様(神田)




体温が低いのは自分の方。
いつも少しほんのりと温かい肌を持つのは彼女の方。

けれど雨露の匂いが鼻を掠めたあの夜、手を繋ごうと誘われ握った小さな手。
それはいつもよりほっこりと温かさが増していたのは、気の所為だっただろうか。

特に何も問題のないイノセンス回収任務だった。
手っ取り早くイノセンスの回収を済ませ、待機させていた雪と合流して一日で終わりを告げた任務。

だからといって任務中に仲良く手を繋いで帰還など、まるで人目を憚らない恋人同士のようだ。



(……違うな)



恋人同士のようだ、ではなく。
恋人同士であることには変わりない。

胸中で浮かんだ表現の誤りを訂正しつつ、神田は小さく溜息を零した。



つい先月、思いもよらない形で想いを伝え恋仲となった、ファインダーの彼女──月城雪。
雪の想いを知り、自らも欲し、そういう間柄にはなったものの、関係は任務仲間であった時と然程変わっていない。

接吻は交えた。
柔らかい体を抱きしめたこともある。
けれどそれまで。
特に任務時は以前と変わらないまま、エクソシストとファインダーとして接した。

それが先日の任務で、彼女がふと帰り道に漏らした言葉。





"手、繋ぎましょう"





妙に畏まった形で、何を言い出すかと思えばそんな拍子抜けの要求。
唐突過ぎて反応が遅れた程だ。
それでも任務中にそんな恋人ごっこのようなこと誰がするかと、首を横に振る気でいたが。

出来なかったのは、"神様の言いつけ"だと少し困り顔で彼女が笑ったから。


/ 723ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp