第10章 ※◆with はち様(神田)
体温が低いのは自分の方。
いつも少しほんのりと温かい肌を持つのは彼女の方。
けれど雨露の匂いが鼻を掠めたあの夜、手を繋ごうと誘われ握った小さな手。
それはいつもよりほっこりと温かさが増していたのは、気の所為だっただろうか。
特に何も問題のないイノセンス回収任務だった。
手っ取り早くイノセンスの回収を済ませ、待機させていた雪と合流して一日で終わりを告げた任務。
だからといって任務中に仲良く手を繋いで帰還など、まるで人目を憚らない恋人同士のようだ。
(……違うな)
恋人同士のようだ、ではなく。
恋人同士であることには変わりない。
胸中で浮かんだ表現の誤りを訂正しつつ、神田は小さく溜息を零した。
つい先月、思いもよらない形で想いを伝え恋仲となった、ファインダーの彼女──月城雪。
雪の想いを知り、自らも欲し、そういう間柄にはなったものの、関係は任務仲間であった時と然程変わっていない。
接吻は交えた。
柔らかい体を抱きしめたこともある。
けれどそれまで。
特に任務時は以前と変わらないまま、エクソシストとファインダーとして接した。
それが先日の任務で、彼女がふと帰り道に漏らした言葉。
"手、繋ぎましょう"
妙に畏まった形で、何を言い出すかと思えばそんな拍子抜けの要求。
唐突過ぎて反応が遅れた程だ。
それでも任務中にそんな恋人ごっこのようなこと誰がするかと、首を横に振る気でいたが。
出来なかったのは、"神様の言いつけ"だと少し困り顔で彼女が笑ったから。