第9章 ◆はなむけの詞を君に(神田)
『私ね、生まれてくる子には普通の生活をさせてあげたいな。ご飯を毎日ちゃんと食べさせて。寝る前に絵本とか読んであげたりして』
心地良い声。
明るく弾ませながら、今はまだ姿無き命の未来を語る。
『毎年誕生日に、ケーキを焼いて祝ってあげるの。ユウのケークサレとは違う、ちゃんとした甘いケーキね』
目を瞑っていても暗い闇の中でも、しっかりと感じられる。
優しい声。
優しい体温。
『学校にも通わせて、将来は自分がなりたいものを目指して欲しいな。自分の道を、自分で歩けるように』
そうだな、と賛同してやりたいけれど。
どうにも心地良い微睡みが邪魔をして、口は動かない。
『そうして、守りたい誰かができるまで…守ってあげていたい。……なんて。私も親バカかな?』
凄く眠い。
まだ起きていたいのに。
深い深い闇に、容赦無く落とされていくような感覚。
けれど不思議と、そこに怖さなんてひとつもなかった。
『…寝ちゃった?』
掛けてくる声。
伝わる体温。
それが与えてくれる安心感が、何よりも勝って。
応える代わりに、握った小さな掌を余った力で柔く握り返した。
『愛してるよ、ユウ』
嗚呼、俺も
──あいしてる
『…おやすみなさい』
淡い抱擁のような言葉と愛に包まれて
そうして あたたかい眠りに落ちた