第2章 ◇恋の始まり(ラビ)
「……マジかよ」
足早に書庫室を出ながら、そんな自分にもう一度呟く。
いつも誰かに恋心を抱く時は、胸を撃ち抜かれたような大きな衝撃だった。
パーンッと頭が弾けて、好きだって気持ちが一気に溢れる。
いつもはそんな恋の始まりだったのに。
じわじわと胸の奥を占める、"好き"だという気持ち。
寝惚けたどこか腑抜けに甘い声や。
ユウやリナリーと同じようで吸い込まれそうに違った暗い目や。
笑う顔。
照れる顔。
そのどれもが当たり前にオレの中に浸透して、漠然と甘く覆い尽していく。
そんな不慣れな感覚。
「…あー…やべぇ」
そんな感覚初めてだから、どうにも簡単に言い訳もなにも利かなさそうで。
そんな感覚初めてだから、それだけの想いの大きさを感じてしまって。
思わず借りた本を額に当てて、その場で深く溜息をついた。
きっかけなんて聞かれてもわからない。
理由なんてもんも、きっと明確に口にできない。
それでもこの気持ちは確かなものだった。
確かに、オレはこの日。
「…マジでやべぇかも」
椎名南という女性に恋をした。
*恋の始まり*
(明日っから、どんな顔して話そ…)