第64章 嵐の夜に
あの日から数日後。
仕事を終えた後、俺は楽屋で斗真を待っていた。
鞄の横に置いた紙袋には、あの日斗真に借りた彼の服。
そして斗真が持って来てくれるあの日俺が着ていた服。
本来なら俺が返しに行かないといけないんだけど、もう暫くうちには来ない方がいいと言う斗真の言葉に甘えた。
本当は今日にでも潤に会って話をしたかった。
でも…その前にこれを返しておきたかった。
その後でちゃんと話そうって思った。
扉がノックされ、斗真が来たんだと紙袋を持って扉を開ける。
「え…潤…?」
そこに立っていたのは…潤だった。
「な、何で…」
潤「疲れてるのにごめん。でも明後日まで待てない。あの日何があったのか理由を知りたい。電話でも言ってくれないし…だったらここに来ようって」
そう言いながら楽屋に入って来る。
「じ、潤ごめん。打ち合わせが…」
潤「さっきマネージャーに会ってこれで終わりだって言ってたよ」
「あ…いや…ちょっと…」
潤「………俺と話したくないから?」
潤がゆっくりと俺の前に立つ。
背中を汗が流れた。
潤「俺達上手くいってたろ。前向きになれてたよね。なのに急にあんな事言われて納得出来ないよ。それに意味が分からない。『彼女を幸せにしてあげて』って…何?」
「お願い。今日は本当に…帰って…」
潤「翔。何で…」
その時。
潤の視線が紙袋の中身に移動する。
それに気付いた俺は慌てて後ろに隠した。
潤「何。それ見られちゃいけないの」
「違う。潤…」
潤「チラッと見えたけど…翔の服じゃないよな。どうしたの」
「潤…俺…」
斗真との事を話そうと決めた時、楽屋の扉が開かれる。
斗真「翔くん遅くなってごめ………」
紙袋を持った斗真が…潤の存在に気付いて顔を強ばらせる。
斗真「潤…」
終わった…。
俺は目を閉じ、大きく息を吸った。