第64章 嵐の夜に
斗真「うっ、ま…」
「え?そう?」
斗真「うん。美味しい。最高」
「そんな…ただの冷蔵庫にあった物使わせて貰っただけだよ?」
斗真「うん。でもそれが嬉しい。ありがとう」
「そんなに褒めて貰って…俺もありがとう」
簡単な、オーソドックスな食事で斗真が喜んでくれて嬉しかった。
斗真「そういえば…俺が泊まった日の朝はお粥とか雑炊作ってくれたよな翔くん」
「だって斗真いつもベロベロになるまで酔うから二日酔い凄いじゃん」
斗真「そうだっけ?」
「そうだよ」
斗真「いつも噛み締めてた。翔くんの手料理が嬉しくて。こっそり幸せ噛み締めてた」
「………」
斗真「俺の服着て料理作ってくれたとこもね」
「斗真…」
斗真の優しさが嬉しくて。
だから俺は…こうして斗真にいつも甘えてしまう。
縋ってしまう。
斗真の気持ちを弄んでる。
分かってるのに。
でも…。
斗真「………翔くん?」
彼女は…潤の子供を妊娠していた。
俺より遥か前に、潤の子供をお腹に宿していた。
俺が潤を奪ったあの時…赤ちゃんがいた。
それを彼女は…。
俺が潤を奪ったせいで。
「っっ、ふ…うぅっ…」
斗真「翔くん…!」
斗真が慌てて立ち上がり、俺を抱き締めてくれる。
潤の裏切りを知った時よりも…痛い。
身体の奥底が悲鳴を上げる。
「斗真…斗真…」
斗真「翔くんどうした?俺はここに居るよ。翔くんの傍に居るから」
「………お願い…強く抱き締めて…」
斗真「うん…」
「もっと…強く…」
斗真の腕の中。
俺はそこで潤を思いながらひたすら泣き続けた。