第64章 嵐の夜に
翔「ごめん…急に押し掛けて…」
ひたすら泣いた後、落ち着いた翔くんがポツリと呟く。
「いいんだよ。でも電話くれれば良かったのに。こんなに濡れるなら迎えに行ったよ」
翔「電源切ってるから…付けたくなくて」
「………そっか」
翔「会わないなんて言っておいてその日に来るなんて…俺…何やってんだろ…ごめん」
「いいんだって。それより身体冷やしちゃうからおいで」
翔くんの手を引いて脱衣所へと入る。
「冬じゃないにしてもこのままじゃ冷やして風邪引くだろ?俺の服でいいかな?」
翔「………うん。ありがとう」
「シャワーでも浴びて温まっておいでよ。じゃあ向こうで待って…」
出て行こうとする俺の背中に…柔らかい感触。
「翔くん…?」
翔「………彼女に会った」
「………真央?」
そう聞くと何も言わずに頷いた。
「………何か言われた?」
翔「………全部…俺のせいなんだよ」
俺の背中に顔を埋めたまま、翔くんが呟いた。
「そんな事ない。誰も悪くないから」
翔「斗真…」
腰に回された翔くんの手を俺はしっかりと握った。
翔「………何も考えたくない…何も…」
その言葉が…何を意味するのか。
翔「ごめん斗真…」
手を握ったまま翔くんから離れ、正面から見つめた。
涙に濡れた大きな瞳。
雨が滴る髪の毛。
「………いいの?」
翔「………利用していいって言った…」
「言ったよ」
翔「いつもズルい事してごめん。でも…今の俺には斗真しか…頭に浮かばなかった」
「その言葉だけで十分だよ…。でももう…止まらないからな?」
グッと顔を近付ける。
翔「何も考えられなくして…俺を好きにして…」
翔くんのその言葉で…俺の理性という名の糸が…ブチンと音を立てて切れたのだった。